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【第112回】売上総利益率が想定より少ないのはなぜ? ~工務店の利益解説1

Q私は見積時の粗利益率を25%以上に設定しています。実際、結果はほぼ想定通りになっています。
しかし決算書の売上総利益率を計算すると、21%程度にしかなりません。
なぜ合わないのでしょうか?
(工務店経営・40代・東京)

Aはい、同様のご質問は非常に多くいただいています。
このブログでも、工務店社長の関心事は「集客」と「粗利益」が双璧です。

粗利益、とりわけその「率」については、どの社長も非常に気にされています。

他の工務店さんの話題になると、「その工務店の粗利は何%くらい?」とよく聞かれます。
そして「うちは見積の作成で粗利益率○%以上で設定している」と話が続きます。

さて、ご質問の通り、この「粗利」または「粗利益率」について、社長のイメージと決算書にある「売上総利益」の「売上総利益率」が合わないことがあります。
これについて、なぜ合わないのかを決算書を見ながら検討しましょう。

さらに「利益が残るために必要な売上高の求め方」に関してもご説明したいと思います。

「売上高」と「完成工事高(完工高)」は同じ意味です。この記事では「売上高」に統一しています。

社長のイメージしている「粗利」とは?

工務店の粗利と原価

一般的に、工務店社長のイメージしている粗利とは、

粗利 = 見積額 - 工事原価
ではないでしょうか?

この見積を提出したお客さまと契約し、完成引渡しした場合、

粗利 = 売上高 - 工事原価
となります。
決算書の損益計算書では、「粗利」が「売上総利益」となっています

粗利益率は次の計算式で表されます。

粗利益率 = 粗利 ÷ 見積額 ×100(%)

「工事原価」とは?

ところで、「工事原価」とは何を指すのでしょうか?

社長のイメージでは、工事原価とは
材料費
外注加工費(材工共、大工手間等労賃など)
を合計したものではないでしょうか?

もう少し分かりやすくいうと、工務店が外部に発注するもの(社外に発注するもの)を「原価」としていると思います。

実は社内の経費が含まれていることも

ところが決算書では、工務店の社員職人や現場監督など、外注ではない社内の人件費が計上されていることがあります。
これが「労務費」です。

他に「現場経費」として、現場でかかった水道光熱費や賃料、さらには工事機器等の減価償却費が計上されている場合もあります。

自社には労務費や現場経費という科目がない…?

いま決算書を見ながらこのブログを読まれている方の中には、「うちの決算書には労務費とか現場経費なんてないぞ?」とか、「販管費の給与手当がやけに少ないな」と気づいた方もいらっしゃるかも知れません。

それは、担当の税理士先生によって、勘定科目の仕訳(かかった費用をどの費目に分類するか)が違うことによります。

建設・建築関係の企業を多く手伝っている税理士先生は、かなり細かく工事原価内訳を仕分けられるようです。
逆に商業系の企業が多い先生だと、工事原価は「材料費」と「外注加工費」しかないという場合もあります。

いずれも特に間違いではありません。最終利益や税務上に問題がないからです。

合わない原因のひとつは「見積に入れていない経費」

お客さまに提出する見積の段階で、社員職人や現場経費を見積もっていれば、「社長のイメージの粗利益率」と「決算書の売上総利益率」は、近い数字になるはずです。

しかし、見積もっていなければ、これら相当分の原価が増え粗利が減ることになります

これが、「社長のイメージされている粗利益率」と「決算書の売上総利益率」が合わない要因のひとつです。

「限界利益」という考え方を覚える

限界利益」という言葉をご存知でしょうか?
「損益分岐点」の計算には必ず出てくる用語です。

限界利益は、次の式で表されます。

限界利益 = 売上高 - 変動費

「限界利益」と聞くと、「これが限界の利益?」と思いがちですが、そうではありません。
元は英語の「marginal profit」で、margin(マージン)は、縁(ふち)や余白、限界という意味です。これを和訳してそのまま「限界利益」と名付けられたようです。

ですから、「限界」という言葉に惑わされずに、単純に「売上高から変動費を引いたものを限界利益という」と覚えましょう。

「固定費」と「変動費」とは?

ここで突然出てきた「変動費」って何? と思いますよね。

費用には、「固定費」と「変動費」があります。
それぞれについて簡単に整理しましょう。

固定費」とは、売上高に関係なく発生する費用
変動費」とは、売上高が増えると発生する費用(≒原価

「固定費」の中身は?

固定費は、売上の増減に関係なくかかる費用のことです。
受注が減って売上が減少しても、人件費は毎月発生します。このような費用が固定費です。

固定費には人件費のほか、水道光熱費、家賃、交通費などが含まれ、ほぼ「販売費及び一般管理費(販管費)」と一致します。

しかし前項でご説明したように、「工事原価」の中に、社員職人や現場監督の「労務費」が含まれていました。
また「現場経費」の中に「減価償却費」があれば、これらも固定費です。

そこで固定費は、ほぼ以下の合計になります。

固定費 = 販管費 + 工事原価の労務費 + 工事原価の減価償却費

決算書の経常利益に合わせるために、以下の計算にします。

固定費 = 販管費 + 工事原価の労務費 + 工事原価の減価償却費 - 営業外収益 + 営業外費用

「変動費」の中身は?

変動費は、売上の増減により増えたり減ったりする費用のことです。
新築の受注があれば、材料を買い、外注の業者さんに依頼します。こういった費用をいいます。
つまり、変動費は売上高に連動します

変動費には、材料費、外注加工費、現場経費(減価償却費を除く)が含まれます。

変動費 = 材料費 + 外注加工費 + 現場経費 - 減価償却費

社長のイメージの粗利に近いのは「限界利益」

さて、あらためて「限界利益」を思い出してください。

限界利益 = 売上高 - 変動費(材料費 + 外注加工費 + 現場経費 - 減価償却費)

よく見ると、これは社長のイメージしている粗利益と同じではないでしょうか?
つまり、社長の粗利益と限界利益は、ほぼ同じものなのです。

ちなみに限界利益率は、下記の式になります。

限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高 ×100(%)

これが工務店社長のイメージしている「粗利益率」に近いものです。
ですから、「粗利益率は何%?」というのではなく「限界利益は何%?」というのが、より正確であるといえます。

ここから先は、「限界利益」と記載されていれば、「粗利だな」と置き換えながら読んでいただくと分かりやすいでしょう。

少なくとも「固定費」分の限界利益は必要

先ほど「固定費は売上の増減に関係なくかかる費用」とご説明しました。
ですから最低限、この固定費の分だけは限界利益が必要になります。

これについては次回詳しくご紹介します。

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間瀬 隆司
工務店経営の専門家。集客・営業、人材教育・組織づくり、経営計画、資金繰りを含めた「全ての面倒をみる」スタイルのコンサルティングで、工務店さんを支え続けて30年。工務店のほぼすべてを知り尽くしており、駆け込み寺的な役割を果たしています。神奈川県横浜市在住。海を見るとホッとします。
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