うちは18%くらいなのですが、経営は厳しい状態です。
私はこれ以上の利益率はまずいと思います。
本当は粗利率はどの程度までだったら良いのでしょうか?
(工務店・44歳・静岡)
はい、これは案外よくいただく質問です。
それだけ「粗利益率」を気にされている社長さんが多いということですね。
よくある工務店社長さんとの会話
私「では伺います。20%ならどうですか?」
社長「良いと思います」
私「では、25%では?」
社長「う~ん、ちょっと儲けすぎかな」
私「そうですか。では、30%では?」
社長「絶対まずいです」
私「なぜですか?」
社長「そりゃ、儲けすぎでしょう。施主さまに申し訳ない」
今までに何度か、こんな会話をしたことがあります。
25%は良くて、30%ではダメ。
その線引きはどこから来ているのでしょうか?
この傾向は、真面目な2代目社長さんや職人型の社長さんに多いような気がします。
「儲けすぎてはいけない」と、誰かに刷り込まれたのでしょうか。
しかもかなり歪んだカタチで…。
まずは自社の状態を見極めて
「じゃあ、結局、何%なら良いのですか?」
というご質問には、「取れるなら、取れるだけ取ってください」と、お答えしています。
それは、工務店さんごとに全く事情が異なるからです。
例えば「スタッフ7人で年商5億」の工務店さんと、「スタッフ15人で年商5億」の工務店さんがあるとします。
当然、「スタッフ15人」のほうが、粗利は多く必要ですね。
一方、「スタッフ7人」のほうは、粗利が少なくても余裕かもしれません。
つまり、いかに効率よく経営ができているか、で違ってくるのです。
儲けが少なくカツカツでいつ倒れるか分からないよりは、会社が永続したほうがずっと良いのですから、多いに越したことはないわけです。
なお、想定より粗利が少ないときは、計算方法が違っているケースも考えられます。
詳しくは第43回で取り上げていますので、念のため確認されることをおすすめします。
自社に必要な「粗利額」とは?
具体的に、もう少し詳しく見てみましょう。
そもそも「粗利益」とは、売上高から原価(外注費や材料費など現場に関わる経費)を引いたものです。
この粗利益で、役員や社員の人件費、広告宣伝費や水道光熱費、家賃やリース料などの固定費を賄うわけです。
(粗利益から、これらの経費を引いたものが「営業利益」となります。)
つまり最低限、この「年間にかかる固定費を賄える」だけの粗利益額を稼ぐ必要があるのです。そうでないと経営が成り立ちません。
最低限必要な「売上高」を計算してみる
では仮に、自社の固定費が年間5,000万円かかっているとします。
粗利益率20%の場合
粗利益率を20%とすると、最低限必要な売上高は、
5,000万円 ÷ 20% = 2億5,000万円
粗利益率25%の場合
同様に、粗利益率が25%なら、
5,000万円 ÷ 25% = 2億円
となります。
つまり、「自社の年間にかかる固定費」と「粗利を何%にするか」で、「自社に最低限必要な売上高」が決まります。
この自社に最低限必要な売上高を「損益分岐点売上高」といいます。
この例では固定費を5,000万円と仮定しましたが、御社の固定費を当てはめて計算してみてください。
粗利の最低ラインの目安
これは一般論ですが、最低ラインは一応あります。
スタッフが5人以上、年商4億以上であれば、最低22~23%は欲しいところです。
粗利益率が下がるとどうなる?
仮に年商4億として、粗利益率22%の場合と18%の場合、どうなるか比べてみましょう。
22%の場合
4億円 × 22% = 8,800万円(粗利額)
固定費がこの数字より下であれば、営業利益が残ることになります。
18%の場合
4億円 × 18% = 7,200万円(粗利額)
22%の場合に比べ、1,600万円も粗利が少なくなります。かなり厳しいと思います。
年間棟数が多い場合は別の考え方もありますが…
数をものすごく多くこなしている(=売上が多い)なら10%台でもいい、という考え方もできます。
しかし、工務店業の場合、数を増やせばどうしても人手が必要になり、固定費が増えますから、なかなか難しいですね。
他の業種、例えば製造業は、一度型を作ってしまえば大量生産でき、売れば儲かります。
その点、建設業は一品料理ですから、そうはいかないのが悩ましいところです。
たくさん利益が残ると何ができるか?
先ほどの損益分岐点売上高は、「この売上高以上なら利益が残る」という額です。
つまりカツカツの数字になります。
ですから、少し余裕を持った経営をするためには、売上高をさらに伸ばすか、粗利益率を上げる必要があります。
たくさん利益が残ると、次のようなことができます。
・ボーナスなど社員に還元することができる
・仕事環境の改善が可能
・集客のための広告宣伝を増やせる
・人材募集や育成に力を入れることができる
このように「売上高を伸ばし粗利益率を増やす」ことが、より「会社経営を発展させる」ことにつながるのです。
施主さまに喜ばれる仕事を
商売において、「儲けすぎてはいけない」ということは全くありません。
そもそも、商売の本質は何だと思われますか?
それは「いかに顧客に価値を認めてもらい、結果として利益を上げるか」でしょう。
利益を上げれば、税金を払い、社会に還元する。
さらに雇用を創出する、つまり地域に貢献する。
という、素晴らしいサイクルができるのです。
好業績の工務店さんは、利益率が高いのは当然です。
ではその工務店さんは、いい加減な家を建てて法外な価格で販売しているのでしょうか。
実際は違いますよね。
「施主さまに喜ばれる付加価値を提供している」から、利益が出る。
このことを理解されているので、儲かっているのです。
ちなみに、儲けが出ない工務店さんは、いずれどこかで破綻してしまいます。
その時、誰が一番困るのか。
言うまでもなく、施主さまです。
商売に「儲けすぎ」はありません。
これを頭に置いて、ぜひ世の中に貢献してください。
なお、私どもでは「粗利益」よりも「限界利益」で考えることをおすすめしています。
限界利益や損益分岐点売上高については第112回から連載していますのでご参照ください。
それは、工務店のすべての業務が利益につながっているからです。
その集客は何のために行うのか? 業務のどこにムダが隠れているのか?
自社が本当に改善しなくてはいけない点はどこなのか?
工務店経営の中身を読み解き、経営者としての基本と応用が身につく講座です。
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