第73回記事の続きです。
大工さんをはじめとする職人不足問題について、引き続き考えていきます。
職人を増やす方法を考える
建築現場に行ってみると、職人さんたちは圧倒的に高齢者が多く、若い人はちらほら。
かつては、職人さんの息子は職人になることも珍しくありませんでした。
ところが、今は職人になる人も減っています。
そこで、これから職人を増やすにはどうしたらいいのか。
(1)誰を職人にするのか?
(2)誰が育てるのか?
(3)その環境をどのように整えるのか?
という3つのポイントでまとめてみました。
(1)誰を職人にするのか?
1. 従来の方法(外注スタイル)
自社の周りで、職人さんの後継者が育ってくれていれば、ひとまず安心できます。
職人の息子がいるのでは?
前述のとおり、非常に少なくなっています。
かつては世襲制のような時代もありました。しかし多くのお子さんたちは職人の道を選びませんでした。
職人に弟子入りする人材は?
現場で、弟子入りした若い職人さんを見かけられたことがありますか?
これもかなり少ないと思われます。
専門職の工事会社が人材を育成している
最近、塗装屋さんや左官屋さんなどの専門職の工事会社が、若い人材や外国人を積極的に雇って自社で育成しています。
このような会社が協力会社にいてくれれば、心強いですね。
しかし、上記のどれもない場合は、依頼先がなくなってしまいます。
そのため、「仕事があっても現場が動かない」状況になりかねません。
すべてを他社頼み、では不安が残ります。
2. 職人の内製化
そこで次に検討したいのは、「職人の内製化(ないせいか)」です。
「内製化」:下請けなど外部に生産委託していたものをとりやめ、自らの会社内部で生産すること(出典:三省堂大辞林)
つまり、外注していた仕事、例えば大工さんや左官屋さんの仕事を「自社の社員職人」が行うようにします。
これは「職人不足」の解決策のひとつであり、工務店にとっては切り札でもあります。
もちろんいくつかの課題がありますが、どれも解決が可能なものです。
大工さんや左官屋さんが引退した場合に備え、今から準備することをおすすめします。
基本的には新規採用で考えていきます。
必要な職種、育成方法を検討する
まずはどの職種の職人として育てるか、必要な職種を検討します。
そして、仮に希望者が入社したとして、どのように育成するか、大枠を決めます。
外部の親方に技術指導をお願いするなら、事前に育成の必要性を丁寧に説明する必要があるからです。
この「誰を」「どのように育成するか」が非常に重要です。
誰を採用するか
[新卒者を採用する]
高校卒、専門学校卒、短大卒、大学卒の新卒者採用を検討します。
「うちのような小さな工務店に、新卒はきませんよ」と思われますか?
意外にも、そうではないのです。
いまの若い人たちには、大工さんや職人さんの職種は人気があります。
むしろ「サラリーマン職人を育てる会社」ということがウリになるのです。
特に大卒の人材は良いと思います。
[中途で採用する]
中途でも、職人技を覚える覚悟のある人はいます。
「職人」として中途募集をかけます。
[外国人を採用する]
「職人不足」と「人手不足」は、実は同じです。
人手不足は日本中どの業種業界でも起こっています。
その大きな担い手が外国人です。身近なところではコンビニや飲食店でよく見かけます。
住宅業界の建築現場でも外国人を見かけるようになりました。
彼らの多くは真面目に仕事をしようと、遠い国から日本にやってきています。
受け入れ側がしっかり対応できれば、長期的な戦力になります。
既に実践している会社は多くあります。
外国人の採用については、また別途ご紹介したいと思います。
(2)誰が育てるのか?
採用した人材を誰が育てるのか?
それはもちろん社長です。
人として、社会人として、その基本を教えるのは社長の仕事です。
ただし、技術に関しては、いま現場で仕事をしている親方やベテランの職人さんに指導をお願いすることになると思います。
親方やベテラン職人さんが教育者になれるのか?
おそらく、いま活躍している親方や職人さんたちは、技術の基礎教育や、丁寧な現場指導を受けてきたわけではありません。
多くの人は、長い見習い期間に「習うより慣れろ」「体で覚えろ」という教えを受けて一人前になっています。
今では完全にNGなのですが、時には暴力まがいの行為や厳しい指導もありました。
そのような教えを受けてきた方々が、若い人たちの教育ができるかといえば、なかなか難しいように思います。
中には指導が上手な方もいらっしゃいますが、少数派ではないでしょうか。
あらかじめ育成方法を考えておく
ですから、ここで社長が調整役となってください。
職人希望者が入社する前に、親方と相談しながら、簡単な教育カリキュラムを作ります。
そんなに立派なものでなくてもかまいません。
ここに時間を費やすことで、親方と一緒に「人にどう教えるか」を考えていきます。
例えば、左官職人の場合です。
職人に必要な技能には、「知識」と「技術」があります。
「知識」としては、材料の特徴や温度・湿度管理などがあります。
知識は座学(ざがく:講義を聞いたり本を読むこと)で、ある程度は修得できます。
「技術」は、例えば鏝(こて)の使い方。できるだけ早く修得させるために、何度も何度も練習が必要です。
昔のように親方について見習いをしているだけでは、いつまでたっても左官職人にはなり得ません。ここが重要なところです。
そこで、この部分に重点を置いたカリキュラムを親方と一緒に作り上げ、一緒に指導するイメージです。
やってみせ、言って聞かせて、
させてみせ、ほめてやらねば、
人は動かじ。
山本五十六元帥のことばですね。人の育成はまさにこの通りだと思います。
(3)その環境をどのように整えるのか?
新人が入社し、親方のもと、1年も経つととりあえず職人らしくなるものです。
問題は、その新人が「長く定着してくれるかどうか」です。
「ある程度できるようになったら、辞めてしまうのでは?」あるいは「他社に引き抜かれてしまうのでは?」といった心配もあります。
なぜ、自社にいたくないと思うのか? なぜ、他社に行ってしまうのか?
その自問自答を繰り返し、職場環境、社内の雰囲気、評価制度、賃金制度など、態勢を整えていくことが大切です。
これは職人さんがいようがいまいが関係ありませんが…。
そして、何より社長が覚悟と熱意を持って人材を育成することです。
「職人の内製化」ができれば、職人不足の解決はもちろん、他にもメリットが多くあります。
経営が大きく変わります。
ぜひ、検討をおすすめします。
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