私は常に、お客さまに感謝の気持ちを持って接客するように言っています。
それが伝わっていないのもショックですが、指摘されたスタッフは人当たりのいいタイプなので余計にショックです。
どのように対応すれば良いでしょうか。
(工務店・56歳・群馬)
お客さま対応は、なかなか難しいですね。
私もしばしば現場見学会に立ち会うことがありますが、お客さまとの接し方を見ていると、確かにハラハラするときはあります。
距離感を取るのはうまくても、お客さまに対する言葉づかいや接し方が雑なスタッフは珍しくありません。
「フレンドリー」と「無礼」は紙一重なところがありますから、時として失礼な対応になってしまう場合もあります。
工務店は何業でしょうか?
「工務店は何業ですか?」
これはよく経営コンサルタントが工務店の社長に問う質問です。
「建設業」? 「建築業」?
もちろん、これらの答えも間違いではありません。
その上でもう少し、仕事の内容を考えてみましょう。
家づくりにはコミュニケーションが必須
工務店に来られるお客さまは、基本的に個人です。
その個人が、家づくりという初めての経験をする、それを工務店と一緒に行うわけです。
家が完成するまでには、お客さまと工務店との間で何度も打合せをしますね。
当然、円滑なコミュニケーションをとり、お客さまに心地よい時間を過ごしていただきながら仕事をする必要があります。
こう考えると、工務店は「接客業」と言えるのではないでしょうか?
さらに「サービス業」とも言えます。
「接客業」と「サービス業」とは
「接客業」とは、
「サービス業」とは、
非物質的生産物(サービス)、ちょっと分かりづらいですね。
簡単に言えば、サービス業とは、カタチのない商品を提供する産業のことです。
しかし、広告業にしても修理業にしても、一定のアウトプットはありますよね。
ですから、もう少し広く考えると、サービス業とは「頭で考えたものを提案して、それをカタチにしていく業種」とも言えます。
工務店の仕事内容は?
注文住宅は、お客さまと初めて出会ったときには、できあがった家はありません。最初は真っ白です。
そこからお客さまのご要望やライフスタイル、土地の環境、予算などを聞いて、図面に落とし、ご提案をして作り上げていきます。
これはまさに、サービス業の領域です。
したがって個人的には、工務店は「接客サービス業」だと考えています。
接客によって自社の印象は左右される
接客業には、飲食店のホールスタッフ、デパートやスーパーの販売スタッフ、ホテルのフロント、美容師や理容師などがあります。
皆さんもお客さまとして、毎日のように利用されていると思います。
「あの店はうまいけど、接客が感じ悪いな」とか「この間行ったアパレルショップの店員さんは感じが良くて、つい余計なものまで買っちゃった」などの印象を受けることがありますね。
これらはすべて、「接客」による印象の違いです。
今回のご質問の件は、まさにこの「接客」状況が良かったのか、悪かったのかを問われていると思います。
接客は毎日の練習の積み重ね
そこでまずは、接客の基本を徹底することを考えましょう。
例えばデパートでは、今でも開店前に練習が行われています。
開店準備中に、「開店20分前です。接客7大用語の唱和をお願いします」という店内放送が流れます。
すると、売り場のスタッフは開店準備の手をとめて、ひとつずつ流れてくる用語を一斉に唱和するのです。
これを毎朝行っています。ベテランも若手も、社員もパートさんも全員です。
ちなみに「接客7大用語」とは、以下の7つをいいます。
(2)少々お待ちください(少々お待ちくださいませ)
(3)かしこまりました
(4)お待たせいたしました
(5)申し訳ありません(申し訳ございません)
(6)恐れ入ります
(7)ありがとうございます(ありがとうございました)
なぜ毎日練習が必要なのか
例えば、お客さまからクレームの電話があったとき。
「ちょ、ちょっと待ってください。社長~っ、○○さんから電話です。ヤバいくらい怒ってます~」
と、受話器も押さえず、保留にもせず、社長を呼ぶスタッフがいたらどうでしょうか。
これではお客さまの感情を逆なでし、火に油を注ぐようなものです。
接客用語は、いざという時にすっと出なくてはいけません。
そのために、普段からの練習が大切になります。
使い慣れていない言葉は、とっさに出てこないものです。
頭で考える前に口から自然と出てくる、といった状態にしておくのがベストです。
「練習しなくても、お客さまの前ではできるから大丈夫」と思っていると失敗します。
ですから、デパートでは今でも朝礼で練習を行っているのです。
ちなみに、先ほどのクレーム電話の例は、
「(クレームの内容を確認し)それは申し訳ございません。ご不便をおかけいたします。少々お待ちください。担当者に変わります」
そして、電話を保留にするのが望ましい対応です。
工務店におけるマナーの状況
「接客マナー」も「社会人としてのマナー」も、基本的には同じです。
家庭で「社会人としてのマナー」を厳しくしつけられている人は少ないでしょう。
そのため大手企業では、新入社員研修の中で必ずマナー研修があります。
そして、配属先でも上司や先輩からマナーに関する指導を受けます。
こうして徐々に身についていくのです。
中小工務店のマナーは個人の力量による
ところが、中小規模の工務店の場合、ほとんど新人採用がないため、マナー研修をすることがありません。
また、中途採用の社員の中には、最低限のマナーが身についている人とそうではない人が混在しています。
そもそも社長ご自身が、マナー研修のようなマナーの基本を学ぶ場面もなく、誰かに指摘を受けることもなく今までやってきた、という方も多くいらっしゃいます。
その場合、社長がスタッフに対してマナー指導をするのは難しいものです。
こうして、スタッフにより接客レベルが違ってしまう、という状況が起こります。
そこで接客サービス業として、基本的な工務店のマナーを定着させるようにしましょう。
工務店の接客マナーの基本
1. 接客の心構え
お客さまは何らかのきっかけで、初めての家づくりに御社を選びました。
知らないことばかりで、お客さまは漠然とした不安を持って来社されます。
そこで「お客さまをお迎えし、その不安を取り除く」という姿勢で臨みましょう。
2. 身だしなみ
身だしなみの基本は、お客さまに不快な思いをさせないことです。
・男女ともヘアスタイルは清潔感のあるもの
・男性は髭そりや手入れ
・女性は化粧の濃さやまつげ・ネイル等の過度な装飾に気をつける
このように、「清潔感」が感じられるかどうかをチェックします。
服装について
工務店では、社長や営業・設計などのスタッフは私服、工事担当者は作業服、といったケースが多くみられます。
私服でも作業服でも構いませんが、派手過ぎる、露出が多い、着こなしがだらしない、汚れている、何日も洗濯していない、と思われるようなものは着ないようにします。
いずれも感覚的なものですから、どの程度ならよいかという基準を決めるのが難しいものです。社内で話し合い、基準を決めるのも良いと思います。
工務店の服装については、第46回でも取り上げています。
3. 言葉づかい
日本語には敬語があります。敬語には「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」の3種類があり、使い分けをしなければなりません。
言葉づかいのマニュアル本を使用して、正しい話し方を練習しましょう。
接客7大用語の練習
毎朝の朝礼などで、スタッフ全員が練習することをおすすめします。
朝礼の司会者が「それでは接客7大用語を始めます。私の後に続いて、唱和をお願いします」として、用語を一つずつ読み上げます。
それに続いて、スタッフ全員で唱和します。
4. 立ち居振る舞い
「立ち居振る舞い」とは、色々な動作に伴う身のこなしや体の動かし方のことです。
具体的には、姿勢やお辞儀の仕方、目線などを言います。
お客さまとの物理的な距離も、近すぎず遠すぎず、を心がけます。
お客さまから見て、嫌な印象とならないような動作・所作をしましょう。
ここまで、接客マナーの基本中の基本をまとめました。
マナーが良ければ仕事は決まる
仮にA社とB社で、全く同じ建物を全く同じ価格で提案されたら、お客さまはマナーの良いほうの会社を選びます。
接客マナーの良い工務店で、業績の悪い会社はありません。
日々のことですから、地道に続けていくのがポイントです。
この記事に関するご質問・ご感想・お問い合わせは【工務店経営の専門家・ジクージン】まで、お気軽にお送りください。